あやかしあやなし
「……弱ってるな。でもまだ息はある」

 言うなり惟道は、雛を抱き上げた。まだ具体的にどこをどう怪我しているかわからないので、そろりと両手で抱き上げ、手や着物が血みどろになるのも厭わず、すぐに袖でくるんだ上で胸に抱く。

「章親、診れるか?」

 陰陽師というのは医師も兼ねていたりする。この時代の病というのは、物の怪の仕業と思われていた部分が大きいので、僧や陰陽師が祈祷などをして治して(?)いたのだ。

『うーん……。多分術自体は大したものじゃないよ。変な術がまとわりついているわけでもないから、祓いはいらないと思う。外傷だけだけど、それが酷いね……』

 そろ、と手を雛に翳す。小さく章親が呪を唱えると、ふわ、と手の平が光を帯び、その柔らかな光が雛を包んだ。

『おお』

 火鼠が、感心したような声を上げてその様子を見る。夥しい血で澱んでいた周りの空気が、一瞬にして浄化された。

『何かおいらまで良い気分になっちゃった』

 小丸がぽやんとした顔で、辺りの綺麗な空気をすんすんと吸い込んでいる。

『素晴らしいのぅ。これほどの浄化能力、ちょっとなかろうよ』

 火鼠も褒めるが、章親は固い表情のまま、惟道を見た。

『気を浄化しただけで、手当てはしてないんだ。厳しい状況なのは変わらないよ』

「わかった。後は和尚に頼もう」

 言うが早いか、惟道は雛を胸に抱いたまま、火鼠の背に飛び乗った。すぐさま火鼠が走り出す。

『待って待って。章親も行くよ』

 小丸も慌てて章親の裾を咥えると、一気に地を蹴る。その様子を唖然と見ていた烏兎は、我に返ると己も羽を広げて、一行の後を追うことにした。
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