あやかしあやなし
「……ふふ、全くあの龍神は、過保護が過ぎる」

 惟道が小さく笑った。おお、と小丸が身を乗り出す。

「惟道は章親絡みだと、よく笑うよねぇ」

 にまにまと言う。実際は、よく、というほどではない。だが能面惟道の笑顔は貴重なのだ。

「一度大笑いするところを見てみたいもんだね」

「普通でもそんな大笑いすることなど滅多にないであろう」

「それはその人の心次第よ。毎日を面白おかしく過ごせば、些細なことでも楽しくなるものなのよ」

 何故か胸を張って小丸が言う。

「それではまるで阿呆のようじゃな」

「阿呆だろうが何だろうが、人生楽しんだもの勝ちよ」

 和尚の突っ込みにも胸を張る小丸を、惟道はしげしげと見た。

「なるほどのぅ。確かにそうかもしれぬ」

 うむ、と頷く惟道に、小丸の胸はますます反り返る。

「そういう風に生きるためにも、此度の騒ぎは早々に治めねばならぬな。今のままでは物の怪たちも、楽には生きられまい」

「あ、そっか。そうだね」

 何だかすっかり元の目的を忘れていた小丸が、反っていた胸を戻して惟道を見た。

「んでもどうする? 都に行ったところで、これといった情報も掴めなかったし」

「そもそもここにおっては何もわからぬ。都に行けぬではそのうちこちらも困るし、手っ取り早くこちらから乗り込んでみようと思うが」

「えー、惟道、いくら物の怪っぽいといっても物の怪ではないんだから。あ、でも烏鷺入れてるから、今は微妙かもね」

「そういうことだ」

 己を囮に使おうということだ。何てことのないように惟道は言うが、これを章親が聞いたら目を剥いて止めることだろう。
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