あやかしあやなし
 朝早く出たお陰で、昼前には京に着くことができた。小丸の言っていた市の店に行ってみたが、やはり店自体がない。

「相変わらず物の怪の気配がしないなぁ」

 小丸が周りを見回しながら言う。

「物の怪の気配がしない、というのは、物の怪がすっかりいなくなったということか? それでは物の怪狩りも、しようにもできないということか」

「そうねぇ、この状態がどれくらい続いてるのかにもよるかな」

「まさか一匹残らず物の怪が狩られてしまったわけではなかろうな」

「この京で、それはないっしょ。人がいる限り、物の怪もいるものよ」

 格言めいたことを言い、小丸は足を速めた。自ら発していないときの、自然に漏れ出る妖気というのはどの程度のものなのか、自分ではわからない。こうも物の怪がいない状態では目立つかもしれないのだ。

「あ、でも前はねぇ、ここから安倍屋敷までは、難なく行けたのよ」

 ふと小丸が足を止め、きょろ、と周りを見た。そして目についた小道に入っていった。

「鴆の話では、罠が仕掛けられてるってことだったよね? それを見つけようよ」

「なるほど。確かにそれが一番手っ取り早いかな」

 相手が見つけてくれなくても、罠にわざと引っ掛かるという手もある。

「どういう罠なのだろうな?」

「触れた途端、滅せられるってほどでもないんじゃないかな。そんな強い力の持ち主ではないように思うし」
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