あやかしあやなし
「俺はともかく、雛は大丈夫だろうか」

「中に入ってるものだけを滅するなんて、かなり高等技術だよ。大丈夫大丈夫」

 軽く言いながら、小丸は川のほうへ歩いていく。川沿いには多くの市が立っている。人が多いほうが、物の怪も紛れやすい。そういった物の怪を狙って、罠が仕掛けられている可能性があるわけだ。

「……うーん。こんだけ人がいるのに、やっぱり物の怪はいないねぇ」

「そうなのか」

 惟道自身は気を見ることはできないので、どれが人でどれが物の怪かはわからない。接したものが人だろうと物の怪だろうと気にしないので、わからなくても問題ないのだが。

「あ、でも怪しいもの発見」

 小丸が言い、たたた、とある一点目掛けて駆けていく。市の奥、目立たない地面に、小さく印が描かれていた。

「これが罠か?」

「多分」

 小丸が頷くなり、惟道がいきなり印を踏みつけた。

「ちょ、ちょっと惟道っ! それ罠だって」

 小丸が仰天して惟道を引っ張ろうとするが、惟道はそれを制した。

「小丸は近寄るな。おぬしのほうが酷く引っ掛かるやもしれぬ」

「おいらは物の怪じゃないっての」

 不満そうに言いながらも、小丸は伸ばした手を引っ込めた。確かに人外ではあるので、罠が惟道よりも反応するかもしれない。
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