あやかしあやなし
「……特に何も起こらぬな」

 片足で印を踏みつけたまま、惟道が呟いた。そして己の胸に手を当てる。

「雛も、何ともないか?」

 とても怯えているようだ。この罠の影響はないようだが、よほど怖い目に遭ったのだろう。

「しっかし惟道、そこまで中のものと会話ができるって凄いよねぇ」

「そうなのか?」

「そうよ~。普通は中のものに意識持っていかれちゃう。だから傍目にはおかしく映るんじゃない」

「そういうものか」

 なるほど、とは思うものの、ということは己はつくづく異質なのだな、とも思う。昔から何を入れても意識が飛ぶことはなかった。だからそういうものだと思っていたが、どうやらそれは惟道ならではのようだ。
 そんなことを考えていた惟道の視線が、不意に流れた。同時に小丸もそちらに顔を向ける。

「見つけた!」

 叫ぶなり、小丸が地を蹴る。その先には、ぎょっとした顔の二人連れ。
 そのうちの身形のいい方が、若干の躊躇いの後、両手を組んだ。それを見、惟道は声を上げた。

「小丸、気をつけろ! 術が飛んでくる!」

 惟道が叫んだ途端、前方から風を切って何かが飛んできた。

「ちぃっ」

 小丸が足を踏ん張り、真横に飛ぶ。飛んできたものは思わず出ていた小丸の尻尾を掠め、その後ろの惟道の頬を掠めて飛んでいった。
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