あやかしあやなし
「あれが雛を切り裂いたのだな」

 切れた頬を拭い、今度は惟道が駆け出した。次は躊躇いなく、前方の人物は組んだ手を突き出す。

「させるかよぅっ」

 小丸が本来の姿に戻り、吠えた。吠えるといっても、一定の者にしか聞こえない、特殊な声だ。だが聞こえる者にはかなりの破壊力がある。
 前方の男が、耳を押さえて膝を付いた。が、惟道もふらりとよろける。

『おっと、ごめん。どうも惟道はこっち側だと思ってしまう』

 狐のまま、小丸が吠えるのを止め、ててて、と倒れている男に駆け寄った。陰陽師等、特殊能力のある者の耳には爆弾なのである。物の怪も聞こえるが、こちらは聞こえるだけでさほど影響はない。

『脳みそ潰してやろうかと思ったけど、お前よりも惟道が危険だからね』

 惟道は陰陽師のような術を使う力はないが、存在自体が特殊能力のようなものなので、こういったものの影響は通常より大きい。今は中に烏鷺が入っているから軽減されたのだ。

「さて、お前たち。話を聞かせて貰おうか」

 人の姿に戻った小丸が、男の腕を掴んで言った。さっき妖狐としての姿を晒したからか、男ももう一人も腰が抜けたようになっている。術を放ったほうは章親よりもいくらか年上の青年、もう一人は少年といったところか。
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