あやかしあやなし
第七章
 安倍家の一室で、男二人は咎人のように小さくなっていた。前には章親の父、吉平が、渋い顔で座っている。

「ではそなたらは、物の怪を狩っていたのは自分の意思ではないと言うのか?」

「は、はい。私だって不用意に物の怪を狩ることがどういうことになるかはわかっております」

 必死で言う青年は、やはり陰陽寮の術師だった。だが陰陽寮に属しているからといって、皆が皆、素晴らしい力の持ち主だとは限らない。異能の者など、そういないものだ。大体の者は、星の動きを見たりする、天文学者のようなものなのだ。

「何が自分の意思じゃない、だよ! お前、思いっきり惟道に向けて術を放ったじゃないか。あれもお前の意思じゃないとか言う気? 惟道から逃げるためだろうが!」

 脇に控えた小丸が、膝を乗り出してきゃんきゃん言う。その惟道は、部屋の隅で章親に焦げた手の甲の手当てを受けている。

「そ、それは……咄嗟だったもので……」

 小丸が口を出すと、青年は途端に怯えた表情になる。ここに来るまでに散々妖狐の姿を見せられ、その力で痛めつけられたからだろう。
 もっとも本来の妖狐の力をまともに食らえば、こんなものでは済まないが。やはり狐というのは神の使いという認識があるので、神の怒りを買ったということは恐怖でしかないのだろう。

「大体咄嗟なわけないだろ! 惟道に下っ端って言われたからだろうが! 腹いせに攻撃したくせに、何が己の意思じゃないだ! 言い訳にしてもお粗末だね。そんなんだから下っ端なんだよ!」

 小丸の怒りは収まらない。ぐ、と拳を握りしめたが、青年はやはり、青い顔で俯いたままだ。さっきは下っ端と言ったのが惟道だから激昂したのか。
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