あやかしあやなし
第二章
「そういえば、京のほうではまた妙な騒ぎが起きておるようだの」

 枝豆を抱えて逃げようとする物の怪を捕まえながら、惟道が口を開いた。

「ほぅ。全く京の都というのは、穏やかに時が流れるということのないところじゃのぅ」

 さしたる興味もなく、和尚が申し訳程度にある髭をしごきながら言う。京でどのような騒ぎが起ころうと、遠く離れたこの化野までは滅多に届かない。それに、京にはそれこそお上直属の陰陽師がいる。

「そんな遠くのことまでわかるとは、さすが、安倍家に仕込まれただけあるの」

「安倍家では何をしたわけでもない。それに、別に何かを感じたわけではない。たまたま(ちん)に聞いただけだ」

 惟道は道仙が死んでから、安倍家に引き取られていた。人としてはあり得ないほど感情がないため、空っぽの器状態の惟道は、何物にも染まりやすい。良いものも悪いものも、すっと身の内に取り込んでしまうのだ。
 昔にそれを見抜いた道仙の父が惟道を拾い、育てる上で自然に何でも取り込むことがないように、軽い自衛の術を教えてくれた。道仙に鬼を植え付けられてからは、鬼の穢れが強すぎて物の怪が寄ってくることもなかったが、鬼が滅せられてからは、また元のまっさらな状態だ。

 とはいえ、本体がいなくなっても長く鬼の穢れを身の内に飼っていた影響は、どう出るかわからない。鬼を滅した安倍章親は、優れた浄化能力の持ち主だった。章親の傍にいれば、鬼の穢れも取れる。額に大怪我も負っていたし、歳が近い惟道を章親が気に入ったこともあり、そのまま安倍家で暮らしていたのだ。
 ちなみに鴆とは、鳥の妖怪である。
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