バカな君へ、贈る愛
「あの、さ……」
頭をポリポリと掻き始めた佐伯くん。
「“佐伯くん”って呼び方じゃなくていいけど?」
「俺も、なんかもう雛形って苗字じゃなくてもいいかなって思って。さっき出会ったばっかで、片手で数えられる程度でしか呼んでねーのにな! ははっ!」
「ふふっ……」
口を開けて豪快に笑う彼を見て、思わずわたしもつられるように笑った。
「ま、そんなこといちいち気にしててもしょうがねーしな! お前のこと、もう“雛形”じゃなくて“珠華”って呼んでいいか? いいよな?」
「うんっ! じゃあ、わたしも、“佐伯くん”、じゃなくて“桜介”って呼ぶことになるのかな……?」
桜介。
こう、呼び捨てで呼ぶと一気に距離が縮まったようで、くすぐったくなる。
「あー、俺ガキの頃、友達の親から“おうくん”って呼ばれてたから、そっちでもいいけど?」
「あっ、うん! じゃあ、おうくんで」
おうくん。
なぜか呼び捨てよりも、このあだ名の方が呼びやすかった。
『くん』がついているからかな。
「おっけ、なんか懐かしい気分になるな」
おうくん、と自分の口でそう言った彼。
……あれ、わたし、自然に笑えてる。