女神の加護? いいえ、ケフィアです。

現世スタート

 唯――いや、オリヴィアには生まれた時から前世の記憶があった。
 中学の図書室にあったライトノベルでは、赤ん坊の時に前世の記憶があると、食事やトイレの時に恥ずかしさに悶える描写があった。
 だが、自分がその立場になると――気持ちは解るがとにかく動けないし、気が付くと眠ってしまっている。前世の感覚だと重病人(物理で動けない)なので、介護が必要だと納得していた。

「あら、お嬢様。お目覚めですか?」

 ……そう思うのは、オリヴィアの世話をしてくれているのが、母親ではないせいもある。
 栗色の髪と瞳。年の頃は母親と同じ、二十歳前後なのだが――着ているのは、ヴィクトリアンスタイルの(この世界では違う呼び方かもしれないが、とにかくロング丈の)メイド服だ。それでも、最初はご飯を食べさせてくれるので母親だと思ったが、異世界転生補正なのか生まれてすぐに、周囲の言葉が理解出来るようになってからは違うと解った。
 余談だが言葉については、赤ん坊の体のせいか聞き取りは出来るが話すことは出来ない。まあ、生まれたばかりの赤ん坊が流暢に話せたら悪目立ちするだろうから、ここは素直に成長に任せることにする。

(自分の子供のことを、お嬢様とは呼ばないよね)

 などと考えているオリヴィアを抱き上げて、メイド(周りからはハンナと呼ばれていた)は、おしめが濡れていないかなどを抱き上げて確かめていた。話せないので「お手数おかけします」という気持ちを眼差しに込めると、にっこり笑い返してくれた。どこまで伝わったか解らないが、嫌われてはいないようなので良しとする。
 冷静に考えると、何の理由もなく雇い主の娘が嫌われることはないと思うのだが――前世で、実の両親から可愛がられることがなかったので、つい不安になってしまうのだ。

「あら、オリヴィア。起きたのね? ハンナ、抱いても良いかしら?」
「ええ、奥様。どうぞ」
「ありがとう……オリヴィア? お母様よ?」

 そんなオリヴィアが、ハンナの手によって現れた榛色の髪の女性に渡される。
 オリヴィアを抱き上げ、顔を覗き込んできたのは髪と同じ榛色の瞳をした、ドレス姿の美女だった。奥様、つまりオリヴィアの母だが美しさもだが、少女のように若々しくてとても子持ちには見えない。

(まあ、子育てはハンナに任せてるし……貴族の家では普通みたいだから、他の奥方様もこうなのかな)

 そして、不安に思うことはもう一つ。
 女神には、パン屋の子供になることをお願いしていたが――何故か、辺境伯の娘として生まれたのだ。
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