タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

捨てる神あれば拾う神あり

「おーい、俺だ! ランだっ……魔物が多いから、この子らに頼んで連れてきて貰ったんだ!」

 不意に空からそう声を張り上げたランに、何事かと思ったら――声の先、視線の先で剣や槍を構えている獣人達が見えた。

「無礼な……!」
「メル、ごめんね……大きいから、誤解されやすいのかも。すごく、優しくて頼りになるのに」
「アガタ様のせいではありません!」
「運んで貰った身からすると、嬢ちゃんに同感なんだが……悪いな。魔物もだけど、ここら辺は野盗や奴隷商人も来るんだよ。喋る鳥もどきだけじゃなく、女子供でも人間がいたらどうしても警戒する」
「その鳥もどきはやめろ!」
「……ああ、うん。それは、仕方ないね」

 ランの遠慮のない言葉に、メルが憤慨するが――アガタとしては、納得するしかなかった。差別されるわ、捕まったら奴隷にされるわでは、むしろよく思えと言うのが難しい。

「……あれ? それなのにわたしにご飯とか、お金っていいの?」

 そこまで考えて、今更ながらに気づいた。それから、ランからは人間に対する警戒や嫌悪をあまり感じなかったことにも。
 そんなアガタの疑問にランが軽く目を見張り、次いでやれやれと呆れたように笑った。

「普通の人族なら渡さないと怒るし、むしろこれ幸いと吹っかけるぞ?」
「え……」
「会えたのが、あんたで良かった……あと俺は、蜂蜜の売り買いで里の奴らよりは、人族に会う。だから全員一括りにはしねぇし、恩は返す。それだけだ」
「……そう」

 話を聞きながら、アガタこそ最初に会った獣人がランだったのは、幸運だと思った。しかし攻撃こそしないが武器から手は離さず、こちらを睨んでいる獣人の男達を見て、これ以上刺激しない方がいいとも思った。

「気持ちだけ受け取るわ。メル、ランを降ろして行きましょ」
「お待ち!」

 だからメルだけではなく、獣人達に聞こえるようにそう言って、立ち去ろうとしたのだが――不意に、知らない女性の声に呼び止められて驚いた。そんなアガタに、いや他の者達にも声の主――獣人の老婆は、臆せず言い放った。

「子供が、変な気を使うんじゃない! 降りといで! あと、あんた達! ランの恩人に、何やってんだい!?」
「……彼女は、ロラ婆。語り部だ……あの婆さんが出てきてくれたら、もう大丈夫だ」

 アガタ達だけに聞こえる小さな声で、ランがボソリと言う。
 その言葉通り、アガタよりも小柄に見える老婆に従い、男達は武器を下ろしたり、鞘に収めたりした。

(もしかして……ランは皆にもだけど、あのお婆さんにも聞こえるように、大きな声で言ったのかしら?)

 そんな疑問が顔に出たのか、ランはニッと口の端を上げ――つられて頬を緩めながら、アガタはメルに言った。

「……メル、一緒に行ってみましょう?」
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