タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
馬鹿の罵倒は馬耳東風
アガタ――いや、安形(あがた)は孤児院出身の男性で。高校卒業後、施設を出て事務職に就職した。
何社も面接に落ち、ようやく就職出来た会社は俗に言うブラック企業だった。出自や能力についていちいち罵倒され、仕事を押しつけられていつもいつも残業していた。そして過労の末、車に轢かれかけた安形はそのまま、病院に運ばれたのである。
(……今って昔、ブラック企業に勤めて罵倒されながら酷使されて、体壊した時と同じじゃない?)
そう、茶番劇で晒し者になったショックからか、今のアガタには前世の記憶が甦っていた。
前世の学生時代に読んだ小説とは違い、主の人格は変わっていない。けれど前世の記憶から得た知識のおかげで先程、少なくとも二人がおかしいことを言っていることに気がついた。
(マリーナ様と大神官様……何でわたしをまだ、この国にいさせようとするの?)
現世のアガタは、幼い頃に両親を盗賊に殺された。そして天涯孤独だったのを、神殿に拾われた。精霊の声が聞こえないことでやれ出来損ないだ、繋ぎだとずっとずっと貶められていた。
だから、先程の貴族達のように自分を追い出そうとするのなら解る。
現に前世で入院した時、その病院の顧問弁護士が動いてくれたので、下手に騒がれて訴えられないようにか無事、退職手続きを取ることが出来たのだ。
……結果、体をしっかり治した後で定食屋に就職し。その店を継ぎ、明るく優しい妻と間に子供まで得て大往生したのは余談である。
話を戻すが、労働力というメリットより訴訟というデメリットが勝ったので、前世のアガタは無事に退職出来た。
けれど新たな、しかも他の神官のように貴族の血を引く(そもそも、精霊の加護を得るのは貴族なのが一般的なのだ)聖女が現れたのに尚、引き留めるとなると――アガタが、まだ必要な可能性がある。
(もしかして……)
ふと、ある考えが浮かぶ。
無事に国を出る為にも、確かめておこう。そう思い、アガタは口を開いた。
「……いえ。わたしのような出来損ないはこれ以上、皆様のお目汚しにならないようこの国を離れることにします」
カーテシーなど習っていない。だからそう言って頭を下げ、踵を返してアガタはパーティー会場を後にしようとしたのだが。
「国を出るだと!? この恩知らずがっ」
「そうよ! あなたは黙って今まで通り、結界を維持してればいいのよ!」
「いえ……わたしはもう、聖女ではありませんから」
アガタがそう言った瞬間、言い募っていた大神官や新たな聖女が青ざめた。
その様子に、アガタを馬鹿にしていた面々が戸惑う。そんな彼らを見て、アガタは自分の考えが正しいことを知った。
何社も面接に落ち、ようやく就職出来た会社は俗に言うブラック企業だった。出自や能力についていちいち罵倒され、仕事を押しつけられていつもいつも残業していた。そして過労の末、車に轢かれかけた安形はそのまま、病院に運ばれたのである。
(……今って昔、ブラック企業に勤めて罵倒されながら酷使されて、体壊した時と同じじゃない?)
そう、茶番劇で晒し者になったショックからか、今のアガタには前世の記憶が甦っていた。
前世の学生時代に読んだ小説とは違い、主の人格は変わっていない。けれど前世の記憶から得た知識のおかげで先程、少なくとも二人がおかしいことを言っていることに気がついた。
(マリーナ様と大神官様……何でわたしをまだ、この国にいさせようとするの?)
現世のアガタは、幼い頃に両親を盗賊に殺された。そして天涯孤独だったのを、神殿に拾われた。精霊の声が聞こえないことでやれ出来損ないだ、繋ぎだとずっとずっと貶められていた。
だから、先程の貴族達のように自分を追い出そうとするのなら解る。
現に前世で入院した時、その病院の顧問弁護士が動いてくれたので、下手に騒がれて訴えられないようにか無事、退職手続きを取ることが出来たのだ。
……結果、体をしっかり治した後で定食屋に就職し。その店を継ぎ、明るく優しい妻と間に子供まで得て大往生したのは余談である。
話を戻すが、労働力というメリットより訴訟というデメリットが勝ったので、前世のアガタは無事に退職出来た。
けれど新たな、しかも他の神官のように貴族の血を引く(そもそも、精霊の加護を得るのは貴族なのが一般的なのだ)聖女が現れたのに尚、引き留めるとなると――アガタが、まだ必要な可能性がある。
(もしかして……)
ふと、ある考えが浮かぶ。
無事に国を出る為にも、確かめておこう。そう思い、アガタは口を開いた。
「……いえ。わたしのような出来損ないはこれ以上、皆様のお目汚しにならないようこの国を離れることにします」
カーテシーなど習っていない。だからそう言って頭を下げ、踵を返してアガタはパーティー会場を後にしようとしたのだが。
「国を出るだと!? この恩知らずがっ」
「そうよ! あなたは黙って今まで通り、結界を維持してればいいのよ!」
「いえ……わたしはもう、聖女ではありませんから」
アガタがそう言った瞬間、言い募っていた大神官や新たな聖女が青ざめた。
その様子に、アガタを馬鹿にしていた面々が戸惑う。そんな彼らを見て、アガタは自分の考えが正しいことを知った。