もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
「なんだ? どした明緒?」
突然、慎吾に顔をのぞきこまれて。
「――――ぁ」
あたしの手からシャーペンが転がり落ちた。
もとから勉強しようなんて、これっぽちも思ってなかったんだからしようがないけど、転がったシャーペンに手は伸びなくて。
そこに、どら猫のすばやさで伸びてきたのは慎吾の手。
「なんだ、明緒。使わねえなら、それ、貸して」
えっ?
「ちょっとここ、ちがってるみたいだからさ」
え?
反応できないあたしに代わって、涼子が慎吾の手元のノートをのぞきこんでいる。
「ちょっと。なによ、あなた。数学、得意なの?」
「かな? 国語は壊滅的にわかんねぇけど」
慎吾の指がカチカチとシャーペンの芯を押しだして。
小学生のころのたくさんのイヤな思い出が頭をよぎる。
教えても、教えても、漢字の書き順をおぼえなかったチビ。
数学だって、ろくに暗算もできなかったくせに――。
「ちょっと! 返してよ」
「待てよ。すぐ直すから」
やだよ。
「トントンしながら暗算するの、やめてよ」
「――はぁ? 指でも折れってか?」
これみよがしにシャーペンの先をノートにトントンされて怒り爆発。
「やめてってば。あんたに貸すと、ボキボキ芯を折るじゃない。返せ」
「なんだよ。おまえが硬い芯を使ってるからだろ? おれのせいじゃねえよ」
「わかってるなら、他の子に借りな」
「なんだよ。どうせ勉強なんてしてねぇんだろ。いいから貸しとけ」
なんだってぇ?
「ひとのじゃましてて、よくそんなこと言えるな、この…はしら男!」
「だーれが、柱だ」
「おまえだ! ばか慎吾!」
「まだ、ばかとか言うか? 友だちにそんな言葉つかうなって。かあちゃんに言われたの忘れたのか、明緒」
「うるっさいわ!」
さんざん言いあって。
思いきりにらみつけてから、ハッと我にかえる。
(う。あ、あ、あ、あ!)
みんなが見ていた。
あたしたちを。