もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
 抱きしめた腕より強く、あたしをつかんでいる慎吾(しんご)の目が、あたしを放さない。

「ずっとずっと好きだった。お…まえに、きらわれたって、無視されたって、あきらめきれなかったんだから、本気だぞっ」
「し…んご……」
「だれにも負けねえよ! おれはあきらめねえ! フツーの友だちなんかでおとなしく終わるくらいなら、おまえのこと困らせて、怒らせて、何回だってきらわれてやる! もうとことんきらわれてんだから! なんだって、できらぁ」

 ぷいっと横を向く慎吾の前髪は、自転車で風に吹かれてきたせいで、あちこちはねて。
 チビだったころの慎吾みたいだけど。
(ああ……)
 やっぱり、ここにいるのは、あたしの知らない慎吾。
 4年間、あたしの知らないところで、少しずつ変わってきた16歳の慎吾。

 だって、そうじゃなかったら、あたしはなんで、こんなにドキドキするの?

 友だちだったあのころは、知りもしなかったこんな気持ち。
 いま、同じ慎吾に感じるなんて、そんなの絶対、おかしいじゃない。
「…………」
 なにも言えなくて立ちつくすあたしに、自転車にまたがった慎吾は、さよならを言わなかった。
「送んねえから……。気をつけて帰れよ」
 ため息まじりのやさしい声で、あたしに考える時間をよこす。
 明日、また会うまでに、今日と、これからと。
 いままでのことを考える時間を……。


 足音を忍ばせて、こっそり部屋にもどった。
 開けたままになっていたカーテンを閉めようとして、ふとそれに気づく。
 ベランダにころがっていた、黒い小さなキャラメル入りのチョコボール。
「…………あ」
 突然ぽろっとこぼれた涙の意味を、でも、あたしは考えちゃいけないんだ。
 絶対に。
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