もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
「じゃ…」
 ひとりだけ、独立した工芸教室に向かうあたしが階段の前で立ち止まると、
「うん。またあとで」
 渡り廊下を芸術棟の音楽室に向かう涼子(りょうこ)が胸の前で小さく手を振った。
 不安気なその様子に、無理をして作った笑顔で答えて別れると、
「永遠の別れじゃあるまいし」
「うるさいわね。くやしかったら、あんたもやってごらん」
「ばっかじゃねえ?」
 うしろで、同じ芸術棟に向かうふたりが、例によって言い争いを始めている。
「言っとくけど。明緒(あきお)がああ言ったからって、あたしは全然信じてないんだからね」
「おう! 笑いたきゃ笑っていいんだぜ。またふられたのは事実だからよ」

 遠ざかるふたりの会話はそれ以上は聞こえなくて。
 涼子がなんて言ったのかまでは、あたしにはわからない。
(はぁ……)
 慎吾(しんご)と涼子。涼子とあたし。あたしと慎吾。
 いつの間にかできた、この変な三角関係の、微妙なバランスをとっているのは、実は涼子だって、このごろあたしは、つくづく思う。
「ひとの気も知らないで……」
 反発したり、いがみあったり。
 それでも離れない涼子と慎吾。
 涼子は慎吾がいまでも好きだから? 
 好きだから、そばにいられればいいのかな?
「わかんないよ……」
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