もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
「よーし! いっちょ真面目にやるか」
 聞こえるように、わざわざ大きな声で言ったのに。
 こんなとき、まっさきに喜ぶはずの涼子(りょうこ)の声は聞こえてこなかった。
 それはつまり、涼子はまだ藤島(ふじしま)を追いかけてるってことだ。
(ちくしょう!)
「手加減しないですよ、先生」
「なぁにを、ごぼう姫がなまいきな。それはワシのセリフじゃあ」
 遊んでもらえると思ってうれしそうだけどね、先生。
 あたし、本当にいま凶暴なんだから、知らないよ?
『藤島くん、いるのかなぁ、好きな子』だってぇ?
 そんなのあたしが知るもんか!

 だいたいアイツが、好きっていう気持ちなんか、わかるわけがない。
 アイツはあたしの大好きだったこと、平気であたしから取りあげたんだから。
 あたしがみんなとサッカーしたり、野球したり、バスケしたり……。
 そんなことが、どんなに好きだったか気づきもしないで。
 あたしのことを仲間はずれにしたんだよ?

 そんなやつに――、そんなやつに、わかってたまるか【好き】なんて。

 藤島なんて人間として最低なんだから。
 女の子の気持ちをもてあそんで!
 泣かせてるのに知らん顔して。
 このうえまだ涼子にまで手を出そうだなんて。
 最低の! ゴミくずの! ばか男!
 (う、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ)

 とにかく身体でも動かして。
 あんなやつのことは忘れなくちゃ、今晩もあの夢、確実だ。
「いくよ、先生」
「おう! こいや、姫ちゃん」
 にやけた先生の足元に、あたしの全集中の「男なんてぇーっ」サーブが炸裂(さくれつ)
「きゃぁぁぁぁぁ」「ナイッサー。明緒ぉ!」
 とんでくる声のなかに涼子の声は聞こえない。
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