もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
 授業のラストに芸術がくると、工芸組はあとかたづけが大変で、帰りの学活に間に合わないこともある。
 その大変さを口実に、堂々とそのあとの掃除までさぼる子もいるけど、あたしは毎回、校則無視、廊下突っ走りのすべりこみ派だ。

 洗った手をハンカチでふきながら、階段を2段とばしで駆けのぼる。
 踊り場の人影に、はっと顔をあげると慎吾(しんご)がいた。
「さっきの続き」
却下(きゃっか)
 例のカレシのことだと思ったあたしが、止まらずにわきを過ぎようとすると、
「ちがう。そのまえ!」
 慎吾が言って、ジーンズのポケットに手をつっこんだ。
 ポケットから出てきた手はグウになって、なにかを握りしめている。
「ライバルもいねえのに、ふられたかと思うと最低の気分だけど……」
「…………」
 あたしの顔色が変わったのを見てか、慎吾があわてて腕を広げて階段をふさいだ。
「悪い。ちがうよな、話が」

 怒らせる、困らせる。
 そんな宣言をしたくせに、慎吾はあたしの気分には敏感だ。

 そうやって気を使われることが、かえってあたしをイライラさせるって、そこまで気づいてくれれば、どんなにいいか。
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