もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
「お先にィ」
 お風呂からあがったことをリビングに知らせによると、テレビを見ながらケタケタ笑っていた母さんが、片手を差し上げた。
 そのてのひらにのっているのは、アイスクリームのカップ。
明緒(あきお)ちゃんのもあるわよ。食べたら?」
 冗談でしょ、夜の9時に!
「あたしはいいよ。太るから」
 正直に言ったのはまずかった。
「太るですってぇ?」母さんの声が裏返る。
「そんなにやせっぽちなのに、なにバカなこと言ってるの!」
 あっという間にお説教がロケット噴射。
 女の子はちょっと太ってるくらいが、かわいいの! とか。
 どこが骨だか肉だか、全然わからない身体してるくせに、あなたって子は! とか。
 16歳は、まだまだ育ち盛りなのよ! とか。
 とにかくそんなことが、ここぞとばかりに大噴出。
 耳にタコだから、あたしは聞いちゃいないけど、やかましいったらありゃしない。
 (…ったくもう)
「とにかく! 寝る前4時間は、なにも食べないほうがいいの! 知らないの?」
 冷たく言って、退散するつもりで背中を向けると、
「わかった! 明緒ちゃん、あなた、好きな男の子ができたんでしょ?」
 母さんのニタニタ声。
 ばっかじゃないの?
「そうなんでしょ? だからダイエットなんて、思いついちゃったのね?」
「ばっかじゃないの?」
 今度は声に出して言ってやる。
 そんな汚い言葉、だれに向かって言ってるの、とか、ふだんだったらまたお小言が始まるところなのに。
 ひとりで納得してる母さんは、うんうん、うなずいている。
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