もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
「なぁ。おれすっげー、あちこち探したんだぜ? まさか靴下はだしで家まで帰ったのか?」
 恩きせがましく話しかけてくるのは無視して門を出て。
(探したのは、あたしのほうだぁーっ)
 藤島(ふじしま)の手からむしり取ったスニーカーを、庭のなかに放り投げる。
「いやおまえ、ここは礼を言って()き替えるところじゃ…」
 横目でキッとにらんで歩きだすと、藤島は両手を上げて肩をすくめ、黙って横に並んできた。
「まったく。怒ると手がつけらんねえのは、全然変わってねえな」
 無視。
「ケガ、なかったのかよ? むちゃしやがって」
 無視。
「電話してもな、どうせ、だんまりだと思ったから。すっげぇ心配だったけど、朝まで待ったんだ。よかったぜ、ちゃんと歩けてるみたいだし、よ」
 ……無視。
「昨日は悪か…」「黙れっ!」
 どうしてあんたは、ここであやまるの?
「それ以上なんか、言わせないからね! あ…たしは、怒ってるんだから。これからもずっとずっと、怒ってるんだから」
「…………」
 藤島が、うつむいて笑う。
「なにがおかしい!」
「いや。口きいてもらえるなんて、思ってなかったから」
「…………!」
 コロシテやる。コロシテやる、コロシテやるぅ!
 こんなに腹の立つやつ、ほかにどこにいる?
 一気に歩幅、2倍。
 スタスタ脚を速めると、藤島もあわてたふうについてくる。
「待てよ。からかったわけじゃねえぞ! ほんと、うれしかったんだって」
 黙れ、黙れ、黙れ。
「おい、待てって。こんなのフェアじゃないだろが」
 なぁんだとぉ?
 聞き捨てならないこと、言うな!
 キッとにらみつけると、藤島が唇をとがらせて肩をすくめる。
「すっげー、手形残ったんだぞ、昨日のビンタ」
「だから?」
 あやまってほしけりゃ、ちゃんとそう言え。
 頭にきたけど、駅に向かう人たちでいっぱいの道で、まさか、もう1発おみまいするわけにもいかなくて、あたしは黙って足を早める。
「だから…って、それだけか? 電車のなかとかは、手でおさえてのりきったけどよ。おれクラブでみんなに笑われちゃって、すっげー恥ずかしかった」
 クラブ?
 うへぇ。
 やっぱり。どこかのいかがわしいクラブに出入りして、女の子はべらせて喜んでるんだ、このばかは。
 離れろ、いやらしい。
 スピードアップ。
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