もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
 でも、競歩なみのスピードで進むあたしの横を、藤島(ふじしま)は離れない。
 ひとり、ふたり、3人、4人……。
 あたしは結局、藤島を振り切れないまま、レースでもしてるみたいに、前を行くサラリーマンのおじさんたちを追い越した。

 ゴールの駅に着いて、自動改札の前で(つか)の間立ち止まる。
 立ち止まったとたんドッと汗が出た。
 顔はほてるし、ほんとにもう。
 自動改札の機械をタッチした定期で顔をあおいでいると、
「おまえって、歩くのも速いのな」
 定期をジーンズのお尻ポケットにしまった藤島が、のんきに言って掲示板の時計を見る。
「…………」
 つられて見上げて、いつもより1本早い電車の到着を知ったけど、驚く余裕もなかった。
 なにしろ息が切れて、それどころじゃなかったからだ。
 なんなの、これ?
 あたしは汗ダラダラの、思いっきりの全速力だったのに。
 横を向いて隠したけど、藤島は絶対に笑った、いま!
「な…にがおかしい!」
 へ? っていう顔であたしを見た藤島は、ちょっと眉毛をよせて困った顔。
「別に、おかしくて笑ったわけじゃねえよ」
「じゃあなんで?」
「なんでかな?」
 素直に首をかしげた藤島は、もう完全に笑っていた。
 ばからしくなって立ち止まる。
 ホームにいそぐ通勤のおじさんたちに迷惑そうな顔で見られたけど。
 ひとりでクスクス笑っている、でかい男を引き連れて歩くよりは、ずーっとマシだ。
「言え!」
「すごむなよ」
「なんだって?」
「ああ、わかった、わかった」
 あたしのゲンコツを見て、藤島が降参のしるしに両手を上げる。
 相変わらず、ふぬけた笑いを浮かべたまま藤島が床に視線を落とした。
「なんなのよ?」
 ひとの目を見てちゃ、言えないことなの?
「いや、さ。あんな程度でハァハァしちゃうなんて。男みたいなかっこしてても、やっぱ、おまえ、女なんだなぁーって思っ…」
 藤島のスネに、あたしの狙いすましたローファーの爪先がストライク。
「ってぇぇぇぇええ!」
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