もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
「ねえ明緒(あきお)、お弁当食べおわったら、次の数学の練習問題、教えてぇ? 番号指しだと当てられちゃうぅ」
 いいよ。
 うなずくと、お弁当箱をそのままに娘たちがガタガタと立ち上がる。
「やだ。じゃ、あたしも! 近藤ちゃんから列指しきたら当たっちゃう」
「うわぁ、めずらしい。明緒がノート見せてくれるの?」
 だれが見せるって?
「教えるだけだよ。ちゃんと自分で考えなきゃ、なんにもならないでしょ」
 あきれて言い返しながら思っていた。
 これはいつも、あたしが涼子(りょうこ)に言っていたセリフ。
(はぁ……)
 とたんに心配になる。
 大丈夫なの、涼子。ちゃんと予習してきてる?
 こっそり肩ごしにのぞいてみた涼子は、自分の席でひとり。
 おはしにのせた小さなごはんのかたまりを口に運んでいた。
(はぁぁ……)
 これでいいの? 涼子。
 あたしはちっとも、よくないよ。

 あたしは、もう二度と、思いだしたくなんかないのに。
 仲間はずれにされて、どんなに悔しくて悲しかったか。
 藤島(ふじしま)の「ふ」が頭に浮かぶだけで、身体が震えるほどつらい思い出なのに。
 いまの涼子を見ていると、思いださずにはいられない。

 ひとりぼっち。
 ひとりぼっち。
 みんなのなかで、ひとりぼっち。

 そんなのは、いやだ。
< 55 / 153 >

この作品をシェア

pagetop