もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
 ガタン。
 一瞬、教室中のおしゃべりが止まるほどの音をたてて、立ち上がった涼子(りょうこ)の椅子が倒れる。
 小走りに廊下に出ていった涼子の背中を、追いかけかけたあたしの身体は、
「やめなよ、明緒(あきお)」「放っておきなって」
 こんなときは力強い女子たちに椅子にもどされた。
「どうせ、どっかでしょんぼりしてれば、男子になぐさめられるんだから大丈夫」
「そうそう。たまには考えたほうがいいのよ、あの子も」
「ねえ、明緒、それより数学、数学」
「あ? うん」
 涼子……。
 こんなふうに、ひとりぼっちにするつもりじゃなかったのに。

 仲間はずれがどんなにつらいか。
 あたしは知ってるのに。

 それでも、あたしがなにもできない理由はもうひとつ。
 今度のことは自分が悪いんじゃないって、心のどこかで思っているからだ。
 あたしはちゃんと説明しようとしたのに。
 それを聞こうともしない涼子が悪いって、どこかでずるく思ってるから。

 なにがあっても、あたしはあたし。
 自分が自分らしくいることが、あたしには一番大事なことだ。
 アイツが――藤島(ふじしま) 慎吾(しんご)が、あたしを公園からしめだしたあの日から。
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