もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー

 無遠慮(ぶえんりょ)にこっちを見ている視線はずっと感じていたけど。
 涼子(りょうこ)の視線だけをあたしが特別に受けとったのは、彼女がいっそ気持ちいいほどの美人だったから。

 150センチあるのかな? と思うくらいちっちゃくて細くて。
 少し茶色がかったストレートヘアを肩で揺らした、その大きな瞳の女の子は、好奇心で(ほほ)をピンクに染めて、子どもみたいにまっすぐな目であたしを見ていた。

 あたしは自分の外見に満足していたから、男とか女とか、そんなことでパニックになるひとたちを見るのは、ひたすらおもしろいことだと思っていたけど。
 その、100%完壁な女の子の視線には、少し動揺してしまった。
 うらやましいというのとはちがう。
 でも、あんなふうに生れついたら、人生どんなだろうって。
 いまのあたしとは、ちがったかなって……。

 そんなことを思いながら見つめあった時間が、長かったのか短かったのか。
 涼子はあたしのほうにツカツカ歩いてきた。

『ねえ、どっちにも見えるって自由でステキだと思うけど。あなたって、かわいい男の子なの? かっこいい女の子なの?』

 あのときの涼子の言葉は忘れない。
 わくわくと、あたしの返事を待っていた瞳も。
『待って!』いきなり、あたしの口をふさいだ手の冷たさも。
 あたしがおどろくと、涼子はぐるっとまわりを見回した。
『ほら。やっぱりみんな聞き耳たててる。だめよ、あたしが聞いたんだから。あたしだけに聞こえるように小さい声で言ってちょうだい』

 あのとき笑っちゃったのはあたしだから。
 先に友だちになりたいと思ったのは、きっとあたしだ。
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