もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
9.おまえを見てたんだ
9.おまえを見てたんだ

『お願いだから! もう藤島くんには関わらないでっ』
 そう叫んだ涼子の気持ちがせつなくて。
 あたしは「わかった……」そう返事をして、ここに来た。


 4年ぶりの噴水公園。
 つらい思い出に負けそうで、しりごみする自分の気持ちがくやしくて。
 ずんずん足を踏み入れる。
 たったひとつの街灯に反射しているモザイクタイルの道。
 植えこみを縁取るセメント丸太。
 秋のいまは、枯れたツルだけの藤棚。
 なにもかもおぼえているそのままなのに。
 記憶より、夢より、ずいぶん小さくなってしまった、あたしの噴水公園。
 噴水なんて名ばかりの、幼児プールを兼ねた小さな丸い水場では、落ち葉が揺れてキラキラと灯りをはね返している。

(ああ…)
 なつかしい気持ちが止まらない。

 ジーンズが汚れることなんか気にもせず、その辺に座りこんでいたあのころ。
 今はちょっとやっぱり、手で砂ぼこりをはらっちゃうけど。
「よく、この水のなかに、ボールをぶちこんだっけねぇ」
 真ん中までいっちゃうと取れなくて。
 一番ちっちゃくて気が弱かったアイツが、いつだって靴下を脱いで、じゃぶじゃぶ水のなかに入るはめになっちゃって。

 ついっと指をのばしてみると、水は意外に冷たかった。
 びっくりして引き上げた指を振っているあたしのうしろで、カサッと音がして。
「冷てぇだろ。冬はもっとだぜ。マジ泣きたかった、おれは」
 暗がりから藤島が、街灯の明かりの下に入ってくる。
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