もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
(あぁぁぁぁ、もう!)
 丸い噴水プールにそって歩いていた藤島(ふじしま)が、立ち止まって腰をおろしたのは、あたしの座っている場所のちょうど反対側。
 小さな噴水プールの直径は、それこそボクシングのリングよりも短いような距離だけど。
 あいだを水にじゃまされていちゃあ、噴水が止まっているいまだって、なぐりに行くこともできやしない。

 その、近くて遠い場所で。
 あたしに背中を見せて座った藤島が、顔だけ半分こっちに向ける。
(あずま)涼子(りょうこ)のことか」
「……っ……」
 さらっと言われて怒りで絶句。
「女子のうわさじゃ、ついに別れたみたいに言ってたのにな」
 別れた? またか!
 言うほうも言うほうだけど、まんま受け取るコイツもなんなの?
 ひくひくする(まゆ)を押さえつけていると、藤島がゆっくり身体の向きを変えて、まっすぐにあたしを…見た。
「あいつが、なにか言ったのか」
「…………」
 よ…くも、まあ。
 おぼえがあるでしょ。
 アンタがふったんだから!
 泣かせたんだから!
(ん、んんんんん)
 言いたいことは、めちゃくちゃあったはずなのに、言葉にならない。
 次から次に、いろいろなことが頭をうずまいて、どれから引き出していいかわからない。
 しかたがないから、
(…のやろうっ!)
 視線にありったけの怒りをこめた。

「……はぁ」
 返ってきたのは、これみよがしなため息。
(な…によ)
 なによ!
 その、まるで、つきあってらんねえぜ…みたいな、ため息は。
 まさか、全然、悪いことをしたと思ってないわけ?
 女の子を傷つけておいて、まるで自分が迷惑してるみたいな顔で。
 ため息?
 最低のクズ男だな。
 そこまできて、ようやく気持ちと言葉がつながった。
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