もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー

涼子(りょうこ)のこと」
 それでも声がかすれた。
「もう一度、考えてやって!」
(ああっ!)
 言った! 言えた!
「…………」
 返事はなかったけど、そんなのかまわない。
 これは、あたしの気持ちのけじめ。
 涼子を大事に思う、あたしの気持ちのけじめなんだから。
「じゃっ……」
 なぜだか涙がでそうな気分をこらえて、歩きだしたあたしを、
「待てっ!」
 今日はじめて聞くキツイ声で、藤島(ふじしま)が縛りつける。
 続く沈黙が藤島にも気まずいことを祈ったけど、藤島はゆっくりと確実に近づいてきた。
明緒(あきお)……」
「なれなれしく、呼ぶなって、言った」
 言い返すけど。
 もう(なぐ)りつける気力も残っていないあたしの手は、伸ばせば届くところに立ち止まった藤島を黙って見逃してしまう。
 藤島が小さくため息をついた。
「要するにおまえは、(あずま)の男が、おれじゃいやなんだ。そうなんだろ?」
「…………」
 わかってるなら、聞くな!
 思うのに、一度そらした目は、もう藤島をにらむこともできなくて。
「友だちの男が…大きらいなやつだなんて、たまんねえもんな」
「…………」
「だけど、おれが東をふったことは気にいらねえんだ?」
「…………」
 図に乗った藤島にたたみかけられても、言い返すこともできない。
< 75 / 153 >

この作品をシェア

pagetop