もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
 出かけたことの言いわけに、コンビニで雑誌を買った。
 こんなときにもコドモは、親に帰宅のあいさつをしなくちゃいけなくて。
「ただいま」
 とりあえず母さんのいるリビングのドアを開けると、
「あっ! 待って! 帰ってきたわ」
 コードレスの受話器をふりまわして、なんだかニヤニヤした母さんがソファーから立ち上がる。
明緒(あきお)ちゃん! 電話!」
 (イエ)デンに? だれ?
「…………」
 そんなはずはない。
 浮かんだ名前を自分で打ち消しながら、おずおず受話器を受け取ると、
「ほら早く。慎吾(しんご)ちゃんよ」
 返ってきたのは、まさに、そのひとの名。
「まさかあなたが、おぼえていてくれると思わなかったわ、ママ。ほら、このあいだママが慎吾ちゃんと話したいって言ったこと」
 そんなこと、おぼえちゃいなかったけど、
「あ、そ」
 適当にごまかそうとしたあたしの言葉は、(みょう)に間がぬける。
 でも、ここでこれ以上変なそぶりを見せたら、母さんに百年たたられるから。
「もしもし……」
 平静に言いながらリビングを出る。
「明緒ちゃん、お話おわったら、またママに電話まわしてね。ママ、久しぶりに慎吾ちゃんママともおしゃべりしたいから」
 な…んだってぇ?
 リビングを出たら、サッサと通話ボタンを切るつもりだったのに……。
 怒りと絶望で受話器を握りしめると、聞こえてきたのはアイツの笑い声。
〔これで切れなくなっちまったな〕
 くそっ、くそっ、くそっ。
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