もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー
 あたし自身は、外も中も、おきれいなだけの良い子なんて、つまらない。
 ピリッとスパイシーだから、涼子(りょうこ)はおもしろいと思ってるけど。
「あ、ほらほら。見て。藤島(ふじしま)くんがボール取ったよ、明緒(あきお)!」
(はぁ……)
 この、こりない藤島攻撃だけは、かんべんだよ。
「あんな男のどこがいいのよ、ほんとにもう」
「うわーん。こっち見てくれないかなぁ、藤島くん」
 ひとの話を聞け。
 んもう。
 ちょうどあたしの鼻の位置にある、体育用に結わいた涼子のポニーテイルを飾るモコモコのシュシュを指でつまんでパチン。
「ほら! よそみしない! やるよ、テニス」
「いやっ。なに、もう! いじわるしないで、明緒っ」
 目だけは遠くの藤島に向けて、涼子があたしの腕に手をかける。
 マニキュアの小さな光がきらめいたとたん、腕にチクッと痛みがきた。
「あたたたた! ちょっ、も、爪なんか立てるかふつう」
「髪ひっぱったの、だれよう」
 髪はひっぱってなーい。
「――あ? ほら、明緒!」
 えっ?
 不覚にも、ついつられて。
 見てしまった、藤島を。
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