惚れたら最後。
「美味い……温まる」



用意された朝食を頬張ると、琥珀は「よかった」と笑った。

琥珀と囲む食卓は、家族とは違う安心感があった。



「でも、朝まで俺の家にいてよかったのか?弟たち大丈夫か?」

「あの2人は自分でなんでもできるから大丈夫。
朝食はサンドイッチ作ってきたから心配いらないよ」

「今日は平日だが、保育園か幼稚園は?」

「今は保育所には通ってないよ」



俺は驚いた。

この歳で仕事をしている傍ら、子育てまでたったひとりでこなしてしているとは。



「まあ、3歳までは育ての親と二人三脚でお世話してたし、仕事は在宅のことが多いし、今はあの子たちおりこうさん育ってくれたからそんなに苦労してないよ。
そういえば……この前IQテストをしたらね、2人ともIQ135もあったの!
IQ135の人間は人口の2%しかいないんだって。すごくない?」

「すごいな、135か……刹那もそれくらいあるって聞いたな。
まあ、流星と星奈は琥珀の影響もあるんだろうな」

「私の?」

「時にはキャバ嬢に扮し、時には弟妹に『ママ』と呼ばせ家族に。演者となり完璧に社会に潜り込む──琥珀はいったい、どんな仕事をしてるんだ?」



俺はついに聞きたかったことを尋ねてみた。



「うーん、簡単にいうと、探偵みたいなこと。
だからあの日、ondineに出向いたのも、調査のためだったんだ」



特に慌てる様子なく食事を口に運びながら話す琥珀。

その瞳をじっと見つめた。

目は口ほどに物を言う。人は嘘をつく時、無意識のうちに目線を逸らしたり、まばたきが増えたり、瞳孔に変化があったりする。

その変化が目の前の琥珀色の瞳からは見られない。



「ああ、だから変装してたんだな。妙に引っかかったんだ」

「すごいね、絆の勘って。選ばれないようにわざとあなたの嫌いそうな格好で行ったのに話しかけられるなんて思ってもなかった」

「俺は勘だけは鋭いらしいからな」

「ふふっ、刹那に言われたこと気にしてるの?」



琥珀は自虐的な発言に吹き出した。

「ちょっとな」と言うとさらに笑われたが、彼女の笑顔を見るのは気分がいい。

人生で初めて恋焦がれ、8ヶ月かかってやっと捕まえた女だ。

その笑顔ひとつで癒される。

ふたりきりの時間がこの上なく幸せだった。

食事が終わった琥珀は帰り支度を始めたので、家まで憂雅に送ってもらうことにした。



「琥珀、今度いつ会える?」

「仕事が片付いたら連絡するよ。それじゃあね」



地下の駐車場まで琥珀を送り出し車が見えなくなったとたん、俺は仕事の顔に切り替え元来た道を戻った。
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