惚れたら最後。
「初めまして、中嶋琥珀です」



挨拶をすると向かって左側に座る組長が口を動かした。



「絆の父の荒瀬志勇だ。よくここまで来てくれた」

「初めましてコハクちゃん。あなたに会えて嬉しいわ」



眩しい……!

真正面から美女の満面の笑みをくらい、その輝きに圧倒されて口をぽかんと開けると、荒瀬志勇がニヤリと笑った。



「可愛いだろう俺の壱華は」

「……はい、美しいです」



まさか荒瀬組の組長に笑いかけられるとは思わず、やっと絞り出た言葉がそれだった。

自慢の妻を褒められ、彼は満足気に笑う。

仏頂面だからあまり感じなかったが、柔らかい表情だと刹那にそっくりだと思った。



「びっくりしたでしょう急に呼び出されて。
わたしが会いたいって言ったの。今日は来てくれてありがとう」

「いいえ、私もお会いしたかったです」



だけど美しいシンデレラに話しかけられ、今日ここに来た意味を思い出した。

相手方が異変を読み取れるようにあえて上目遣いで組長の目を見つめる。

すると荒瀬志勇は眉間にシワを寄せ、私はがらりと変わった迫力にたじろいだ。

それに気がついた絆は私を見つめる。



「ふふっ、絆に彼女ができたなんて聞いていてもたってもいられなくて。
聞けば絆の一目惚れだって言うじゃない?
どんな子なんだろうって余計に気になって。
目が覚めるような美人だからびっくりしちゃった。
わたしはあなたと仲良くなりたいと思ってるの」



一方、私の心理を知らず笑顔を咲かせる絆の母は、あたたかい眼差しを向けてくれる。

こんな陽だまりのような人をこれから傷つけてしまうのかと考えると良心が耐えきれなくてうつむいた。



「琥珀?」



絆の不安そうな声がその気持ちに拍車をかける。

だが、ここで暴露しなければ荒瀬組が危ないんだ。

私は勢いよく顔を上げた。







「お言葉ですが、私はあなた方から歓迎されるべき人間ではありません。
到底許される存在ではないのですから」





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