惚れたら最後。
30分ほどで自宅につき、眠っている琥珀を抱きかかえようと体勢を変える。

すると琥珀ははっと目を開けて、まだ寝ぼけ眼の状態で話しかけてきた。



「……うぅん、ごめん絆、寝てた」



シパシパ瞬きをする琥珀が子猫のようでたまらなく可愛くて、問答無用で抱き上げた。



「えっ、いいよ自分で歩くよ」

「吐きそうって言ってたろ?心配だから運ぶ」

「もう大丈夫だよ。あれは極度の緊張で気分が悪くなっただけで……」

「琥珀、絆は心配してるって言いながら実は組員にイチャついてるところ見せつけたいだけだから気にしなくていいよ」



少し照れ気味な琥珀に対して、呆れ顔の憂雅が口を挟んできた。



「はあ?尚更やだ!」

「憂雅、余計なこと言うなよ」

「下ろして絆、自分で歩けるって」



琥珀は腕の中で抵抗したが、構わずずんずんと歩き事務所に入った。



「若、お勤めご苦労様で……え?」



事務所には10名ほどの組員がおり、半数が絆を凝視して驚いていた。

それもそのはず。今まで女など取っかえ引っ変えだった俺が、目に見えてわかるくらいひとりの女を溺愛しているのだから。



「こら、暴れるな」



琥珀はお姫様抱っこが相当嫌だったらしく暴れていたが、組員に見られていることに気がついて急にしおらしくなった。



「……嫌い、ほんとこういうところ大っ嫌い。私は人目に付くようなこと嫌なんだって」

「そうか、じゃあ慣れるしかねえな。
俺たちの付き合いが荒瀬組公認になった以上、俺は今まで以上に見せびらかすからな」

「……」




「ロン!!!」



不満げな琥珀に笑いかけると、後ろから子どもの甲高い声が聞こえた。

……ロン?麻雀か?

思わず歩みをとめた。



「かーっ!やるねえガキンチョ、こりゃたまげた」

「すごいじゃん流星!次はわたしの番だからね!」



組員と子供の声が、普段は静かな事務所に響く。

わいわいと騒がしい声に琥珀と顔を見合わせ、そっと下ろしてから声の方に向かった。
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