惚れたら最後。
事務所の会議室を開けると、部屋の隅でほこりをかぶっていたはずの麻雀卓を中央に持ってきて、誰かが麻雀をしている最中だった。

……ん?確か事務所の連中に子守りを頼んだが、なんで“このふたり”がここに?

俺たち部屋に入ると、卓に座っていた流星が満面の笑みを浮かべた。



「あ!琥珀と絆、おかえり!
今ね、凛兄ちゃんと(りき)おじさんにマージャン教えてもらってたの!」

「なんで凛は兄ちゃんなのに俺はおじさんなんだよ」

「ごめーん、力のアニキ。俺の方が子ども受けいいからさぁ」

「あぁん?」



凛兄は流星の頭を撫でるとヘらりと笑って力をからかう。



「力さん、なんでここに?」



ちなみに力というのは、本家の厨房責任者。

本家には18の時から務めている古株で、凛太郎の兄貴分だった。



「今日はオフだ。壱華さんに絆の彼女に会えるの楽しみですねー、なんて話してたらでそれを見てたおやっさんに仕事外されちまってさぁ。
そんなことで嫉妬するかァ?と思って」

「ああ、俺のいない場で琥珀が男と談笑してると思うと腹立つ」

「マジかァ……まあ、ここで会えたからいいや。
どうも初めまして、厨房の力です。
こっちは凛太郎、若く見えるけどアラフォーだからな」



力に紹介され乾いた笑みをした凛太郎は琥珀に話しかけた。



「俺のこと知ってるよね?会ったの初めてじゃないから」



少しトゲを含んだ声に、琥珀は身体を強ばらせた。

しかし凛兄の視線はあたたかく、安心した琥珀は口を開いた。



「はい、ランドセル売り場で会いましたね」

「やっぱりそっか。変装してたから君のことは分かんなかったけど流星の人懐っこい笑顔を見て『あ、あの時の子だ』ってすぐ分かってね」



凛兄と琥珀が顔見知りだったとは。

知らないことだらけの自分に嫌気が差して眉間にシワを寄せた。

それに気がついた凛兄は今度は優しくにっこりと笑った。



「じゃ、この2人は俺たちが見てるから話しておいでよ。
絆が不満げな顔してるからさ。
ああ、俺たちのことは気にしないでいいからな。
流星と星奈、麻雀のセンスあってさぁ、教えるのが楽しくって」

「おぅ、そういう事だから心配するな。憂雅もやろうぜ」

「憂雅お兄ちゃんいっしょにしよう!こっち来て!」

「えぇ?星奈に言われたら仕方ねえなぁ」



誘われた憂雅が星奈のキラキラの笑顔に負けて麻雀卓に近づいていく。

俺は琥珀を連れてマンション最上階の自室に向かった。
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