惚れたら最後。
SIDE 琥珀



「琥珀、バーで俺と出会った以前に、俺と会ったことあるだろ」



絆は自室に入ってリビングのソファに隣合わせで座るとそう言った。

……やっぱり、覚えてたんだ。



「中学生のころ?」

「ああ、そうだ。その綺麗な琥珀色の瞳と眼差しを忘れるわけがない。
独特な雰囲気だったから余計気になった」

「いつから、その時出会った女だって分かったの?」

「出会った時からそうじゃねえかと思ってた。
親父を真正面から見つめて目を逸らさない様子を見て、今日確信した。あの時のあいつだって」


私の瞳を真正面から見据えて絆は真剣な表情だ。



「ずっと探してた。その強い光を放つ綺麗な瞳が気になって仕方なかった。
やっと会えて嬉しい」



嬉しそうに笑う絆。



「ありがとう。
でも……私は私のこと、綺麗なんて思わない」

「……どうしてだ?」

「仏頂面だし、屁理屈ばかり言うし、可愛くなれない。
この瞳も生に執着する(いや)しい瞳だって言われた」

「誰がそんなこと………」




言葉を失った絆は、ハッとした顔をして何かを思い出したようだった。

そう、私には忌むべき過去がある。

実母、相川美花から受けた傷は心を深くえぐって今も癒えていない。



「だけどね、その考えを変えてくれたのが夢だったんだ」



強がって笑って見せても、絆は眉を下げて心配そうな顔を浮かべるばかり。

そんなにひどい顔をしてるのかな、なんてうつむいてしまったその時、絆私の手をそっと握った。

顔を上げると、その漆黒の瞳はいつだって美しく光を放っている。

そうだ、悲観的になってる場合じゃない。

私は覚悟を決めた。




「絆のお母さんたちに話したこと、絆にも話すね。
私は絆とこれからも一緒にいたいから、知っていて欲しい」
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