惚れたら最後。
『夢……まだ寝てるの?起きてよ』



夢が35歳を過ぎた時だ。彼女に異変が起きた。

異常なほど眠りこけるようになってしまった。

次第に眠る時間は長くなり、一度眠ってしまうと数日起きないのがざらになった。






彼女は重度の睡眠障害「ナルコプレシー」を発症してしまった。








4歳の幼子2人を抱え、彼女の介護をするのは精神的に相当やられてしまった。

あれだけ元気だった人間が、今や寝てる間はおむつを変えて身体を拭いてやらないといけない。

いつか治ると信じてた毎日泣きながら身の回りの世話をした。

しかし、悲劇はそれだけにとどまらず、ある日起きた夢は胸に違和感があると訴えてきた。

病院にいくと───彼女は癌を患っていることが判明した。


眠っている期間が長かったから自身も身体の異変に気づかず、見つかった時は既に末期だった。

夢は延命治療を望まなかった。

痛み止めだけ投与して残りの時間は家族と過ごすことにした。

そして癌と宣告されて3ヶ月後の満月の夜、夢は病室に私を呼んだ。



『綺麗だね琥珀。月の光に照らされて、まるで本物の梟の目みたいだ。
あんたと会えてよかった。琥珀と会えてからあたしの世界に色がついた。
……愛してるよ、琥珀。幸せになるんだよ』



そうして彼女はこの世を去った。

死に顔は安らかに笑っていて美しかった。
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