惚れたら最後。
夢が亡くなってからずっと我慢していた感情が爆発したかのようだった。

私はまるで幼子のように泣きじゃくった。

絆は何も言わず、嗚咽が治まるまでずっと背中をさすってくれた。





「ごめん絆、服濡らしちゃった」



泣き止んでから顔を離すと絆の服が涙でビッチャリだと言うことに気がついた。



「別に、琥珀の涙なら構わねえよ」



申し訳ないと思う反面、絆がなぜかドヤ顔でいうものだから少し引いてしまった。



「ドン引きはやめろよ」

「あ、ごめん」

「……とりあえず、明日から引越し準備だな」



私の反応に傷ついたのか、不自然に話題変換をした絆。



「うん、そうだね。
そしたら準備するから流星と星奈にそろそろ帰るよって言いに行かなきゃ」

「そんな顔で弟たちの前に出るのか?」

「……ひどい顔してる?」

「いや、泣き顔が可愛いから他の男に見せたくねえと思って」



まじめな顔でそういうものだから面食らった。

……褒めちぎってくるの、慣れないなぁ。

無表情で固まったその態度を“引いた”と勘違いした絆は私の目をじっと見つめる。



「なあ、琥珀こそ俺でいいのか?
こんな風に束縛するし嫉妬するし、なかなか面倒な男だぞ」

「……絆のことどうしようもなく好きだって分かってるくせに、そんなこと言うなんてずるいね」

「ああ、その答えが聞きたかったんだ」



かと思えばニヤリと白い歯を見せて笑う。



「……いじわる」

「なんとでも言えよ。かわいいなぁ琥珀」



幼少期、愛に飢えてカラカラに乾いた器は今となれば溢れんばかりに満たされていた。

際限なく愛を注いでくれる彼に一生敵わないと思った。
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