惚れたら最後。
「琥珀……」



耳元で名前をささやかれ思わず身構えた。



「何?」

「……分かってんだろ?」



ドキッとしたのは勘違いではなかったらしい。

振り返ると、後頭部を押さえられて唇を奪われた。

加減のない激しいキスに驚いて絆の胸を両手で押し返した。



「んっ……ふぅ、ん」



だけどいとも容易く押さえつけられて、逃げ場を失った。

気がつけば絆の胸にもたれかかって息を荒くしていた。



「はぁっ、はあ……」

「欲しい、お前が欲しくてたまらない」



そっと官能的に言われ、琥珀は顔を真っ赤にするものの抗えず、大人しく寝室に連れて行かれた。










「……もう絆としない、死ぬかと思った」

「悪かったって琥珀」

「やだ、許さない。苦しかったもん」



数時間後、私はお風呂でいじけていた。

激しく求めてきたせいで気を失ってしまったのだ。

なんだか悔しくて元凶である絆を睨んだ。



「ごめん、可愛すぎて夢中になってた」

「そう言えば許してもらえると思ってる?」

「別に?本気でそう思ってた」

「っ……」



いい笑顔でそういうものだから許してしまいそうになったけど、深呼吸してまっすぐ絆を見つめる。



「ほんとは違うでしょ?
……何がそんなに不安なの?」



不安をかき消すように求めてきていたのはなんとなく分かっていた。

すると絆は観念したように、濡れた髪をかきあげて言った。



「琥珀はいつでも逃げられる手段を持っている。
俺はアウトロー(ならず者)だ。
これからも罪を犯し、数多の屍の上に立ち続ける。
“永遠と快”のようなケースになった場合、お前は二度と手の届かない場所に逃げてしまうのだろうと考えると怖くて仕方ない」

「なんだ、そんなこと?」



私は笑って浴槽の隅から絆のいる中央へ寄った。



「私は金さえ積めばなんでもやる情報屋だよ。
勝ったやつが正義だ、そう教えられてきた。
依頼が来ればなんでもやった。
わたしがいなければ今頃も幸せに生きているだろう人の人生を、容赦なく奪ってきた私の行く道は地獄だ。
私たちはよく似てる」



不敵に笑う私に、絆は「敵わねぇな」と呟いて抱きしめた。
< 150 / 312 >

この作品をシェア

pagetop