惚れたら最後。
『琥珀へ』



筆跡は間違いなく夢だった。癖字だったからすぐ分かる。



『どうやら見つけたみたいだね。
最初に言っとくけど辛気臭い顔でこの手紙読むんじゃないよ、そんな良いこと書いてないから』

「プッ……夢っぽいな」



手紙の始まりから彼女らしさが顕れていて吹き出した。



『これが見つかったってことはあたしは死んだんだろうね。
じゃないと手紙なんて小っ恥ずかしくて生きてるうちになんて渡せない。
でも、形あるものを琥珀に遺したかったのは事実だから最後まで読んでほしい』



私は夢中で読み進めた。



『まず琥珀に迷惑をかけてしまったことを謝りたい。
多感な思春期に介護や育児の重荷を背負わせてしまった。ダメな親代わりでごめん』



その謝罪を皮切りに、未練、感謝、愛情、心配、さまざまな気持ちがつまった文章は心を揺さぶった。

便せんいっぱいに書かれた夢の想い。

時間をかけて読んだ手紙は、やがて最後の1枚になった。



『最後にお願いがある。
それは“必ず幸せになること”。
幸せの形はそれぞれだ。直接言うのは照れるからここに書くけど、あたしは琥珀に出会えてから人生が変わったんだ。もちろんいい方向に。
あたしたちはかけがえのない家族であり、姉妹であり仲間だ。
そして最高のパートナーだったよ。
胸を張って幸せと言える人生だった、ありがとう』



ゆらゆらと視界が揺れるのは涙のせいだろう。私はついに最後の一文を読んだ。



『だからこそ、あたしのかわいい琥珀を苦しめる輩は祟ってやる。
どうせあたしは天国になんて行けないだろうから、そばでいつでも見守ってるからね』



最後まで夢らしいなひと文だ。

私は泣きながら笑って、手紙を抱きしめるように胸に押しつけ両手でそっと握った。
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