惚れたら最後。
「あー、眠い。今から帰るのダルい」
「泊まっていけよ」
「流星と星奈が心配するから帰るよ。
面倒だったらタクシー呼ぶから大丈夫」
チャプ、揺れる水面。立ち上る蒸気。
円形の広い浴槽に隣同士で足を伸ばして座り、お互いの顔を見ながら話し合う。
俺はふと、琥珀の胸元にピンク色のキスマークがついているのを見ていたずらに笑った。
「いや送る、しばらく眠れねえだろうからいい。
琥珀を抱いた後だとなかなか熱が冷めない」
「すーぐそういうこと言うんだから」
「ははっ、ちょっとは慣れてきた?」
「慣れないけど、慣れるしかないじゃん」
口をすぼめてぼそぼそ言う琥珀を微笑ましく見つめていたら、彼女のまぶたに気になるものがあった。
まぶたに白い斑点───火傷の跡がある。
琥珀が以前話してくれた過去の虐待の話を思い出し、目の上をなぞるように触れる。
「……なに?」
「……明るいところだと、分かりやすいと思って」
「ああ、火傷の跡?そんなに目立たないから気にしてないよ。メイクしたら隠れるし」
「これ、弟たち知ってるのか?」
「知ってるけど生まれつきのアザだって説明してる。
世の中知らなくていいことだってあるし」
傷の上にそっと触れるだけのキスをして、琥珀のびっくりしたように大きく開いた目を見つめた。
「神秘的な綺麗な瞳だ、ずっと見つめていたい。
琥珀は自分の目に好きじゃないみたいだが、誰よりも魅力的で美しいってことを忘れないでくれ」