惚れたら最後。
「……なんで、そういうこと言うの。
今日、ちょっと涙脆いからやめてよ」

「琥珀の泣き顔好きだから、いくらでも泣いてもいいけどな」

「やなこった!今泣いたら目が腫れる。
明日流星と星奈にびっくりされるっての」

「テンパったらそういう口調になるのって『夢』の影響か?」



琥珀はハッとした表情を浮かべ、そして幸せそうに笑った。



「あはは、そうだよ。夢って言葉がガサツで乱暴でさ。
でも不思議とぬくもりがある人だったんだ。
やっぱり長い間一緒にいたから、似てきちゃうんだなぁ」



膝を抱えて笑う琥珀は、ふとした瞬間何かを思い出したように顔を上げた。



「あ、化粧落としたのはいいけどメイク道具持ってきてないや。
やば、すっぴんで帰らなきゃ」

「俺はすっぴんも好きだけど。
年相応のあどけなさが残ってるところに興奮する」

「……」

「ははっ、無言でドン引きはやめろって」



徐々に距離を取ろうとする琥珀の細い腰をすかさず抱き寄せた。

裸で密着する身体に琥珀は目を泳がせている。



「な、なにすんのっ」

「別に?逃げようとしたから抱き寄せただけ。
琥珀、ぼちぼち荷物こっちに運び出しとけよ。
まあ、身一つで来てもらっても構わねえけど」

「いやそんな非常識なことをしたくない。
予定通り2週間後に引越し完了するように荷造り中なのでご心配なく」

「からかっただけなのに真面目かよ

「真面目だから信頼って得られるの。絆もそうでしょ?」

「……ああ、似てるもんな俺たち。気が合う理由もよく分かる。
だから余計に離したくねえんだよな、心地よくて好きすぎて」

「私も同じ気持ち。好きだよ絆」



その時初めて、琥珀の口から好きだと聞いて安堵した。

恋は盲目と言うが、それは俺だけじゃなかったようだ。

安心して1年を迎えることができそうだと胸をなでおろした。
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