惚れたら最後。
振り返ると、淡いピンク色のワンピース姿の、背の低い巻き髪の女がものすごい形相で立っている。

え、誰この女……。

たぶん可愛らしい顔をしているんだろうけど、怒ったその表情では台無しだ。



「あんた荒瀬絆の女でしょ!」



甲高い女の叫び。

その一言に『ついに来た』と思った。

……壱華さん、言いがかりつけてくるおつむが残念な女いましたよ。

睨みつける女は目が合うと烈火のごとくまくし立てた。



「なんであんたみたいなぽっと出が絆様に選ばれるの?
あの人は由緒ある家柄よ!あんたみたいな庶民なんかと釣り合わないから!」



言われた内容より、つばが飛んできてそれが実に不快だ。

そんなことより、この女もしかして絆と関係があったの?

そうだとしたら趣味が悪いなぁと首をかしげた。



「絶対あたしの方が家柄もいいし釣り合うのに!
あたしは社長令嬢なんだから!」



冷静に観察していたが、その言葉には眉をひそめた。

由緒ある家柄とか、庶民とか何時代の人間だよ。

てか、今の時代ヤクザと社長令嬢が関係持ったらが大問題だし。

今どきヤクザは、クレジットカードや銀行口座を作ったりするだけで逮捕されてしまう世の中だ。

現代ヤクザに人権はないとまで言われている。

そんなことも知らず家柄が〜、なんて喚く目の前の女は世間知らずにも程がある。

私は何も反論せず、じぃーっとひたすら女の目を見つめた。

するとその目が怖かったようで、彼女は後ずさりした。



「な、何、なんとか言ったら!?」



視界が少し開けると、周りの客に注目されてしまっていることに気がついた。

やだなぁとため息をついたその時だ。




「ねえ、琥珀に何してるの?」




抑揚のない女性の冷淡な声が介入してきた。
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