惚れたら最後。
振り返るとそこにいたのは永遠だった。

普段の雰囲気と違いすぎて、永遠だと認識するまで時間がかかった。

無表情だが、辺りを凍らせるような怒りの感情を感じ取れた。



「ひっ……『狼姫』…!?」



怖気付いた女は極端に顔を強ばらせた。

やっぱり『狼』の子だ。迫力が違う。

あんなに温厚な少女が極道さながらの威嚇をするなんて思ってもなかった。

呆気にとられていると永遠が突っかかってきた女を睨んだ。



「あなただぁれ?私の友達を怒鳴るなんていい度胸してるじゃない」

「あ…いや、その」

「どこの社長令嬢か知らないけど、そんな横暴な立ち振る舞いをしてたら身を滅ぼすよ?」

「……っ」



永遠の言葉と気迫を受け、生まれたての子鹿のように膝をガタガタ震わせてしどろもどろになっている。

テンプレ通りの慌てように哀れだと思った。



「お、お姉ちゃん……」



すると、緊張した顔の星奈が護衛の男に連れられながらそっとテーブルに戻ってきた。

気を使ってか、ものすごく小さな声で呼びかけるものだから気が付かなかった。



「どうしよう、憂雅呼んだほうがいい?」

「大丈夫だと思うから星奈はそこにいて」



永遠に睨まれ、蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった女。

とりあえずこの場を治めようと立ち上がった矢先、その女は突然走り出して人混みをかき分けレストランから消えた。

なんだったんだろう……。

彼女の向かった先をじっと見ていると、仁王立ちしていた永遠が動き出した。
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