惚れたら最後。
予定通り30分で本家にたどり着き、車から出て敷地に入ると、何やら人の動きがざわついていることに気がついた。

まさかね、と思いながら絆の後についていくと、玄関付近で彼の足がぴたりと止まった。

立ち止まって目線を上げると───玄関に続く石畳の脇に本家の組員たちが並んで頭を下げている。

タイミング悪すぎ……。

もはや神がかった“引きの強さ”に呆れ果てた。



「うわ、理叶さんもう帰ってきてるな、予定よりずいぶん早くね?どうする絆」

「行くしかねえよな、離れに行くにもあそこは通らねえと行けねえし。
……マジでごめん琥珀」

「ふぅぅ……大丈夫、腹くくる」



申し訳なさそうに謝る絆。

私は覚悟を決めたかのように目をつぶり、深呼吸をしてカッと目を見開いた。





「潮崎理叶です、ただいま帰りました」



玄関にさしかかると、聞き取りやすく落ち着いた男の声が聞こえてきた。

敷居をまたいだ先の玄関には組長の荒瀬志勇が仁王立ちしており、その前に黒髪のスーツ姿の男が靴を履いたまま深く頭を下げていた。

組長は一瞬こっちを見て琥珀に気が付き「ん?」と顔をしかめたが、すぐに目の前の男に視線を戻した。



「けっ、てめえなんざムショでずっと臭い飯食ってりゃよかったんだよ」

「ははは、変わらずお元気のようでよかった」



潮崎は顔を上げてあっけらかんとした様子で笑っていた。

表情は見えないが、挨拶した時より声が弾んでいる。

後ろ姿からは組長と違って意外と威圧感ないな、と感じた。
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