惚れたら最後。
「酒くっさ……」

「さあ飲むわよ祝賀よ!おいで理叶!
姉ちゃんについてらっしゃい」



思いっきり鼻をつまんだ理叶さんだったが、問答無用に引きずられるようにして部屋の外へ誘導されていく。

若頭の光冴さんは立ち上がり、親父に頭を下げ手部屋を出たが、組長代理の司水はその場に残った。



「依頼したのは失敗だったかもな」



理叶さんが出ていき、気が軽くなった親父が腕を組んでぼそりと一言漏らす。



「何言ってんだよ兄貴、理叶は荒瀬の幹部だ。
あいつを失うと損失がでかい」

「そうですよ志勇、あなたがどれほど嫌いでも、理叶ほど組のために無慈悲になれる人間は荒瀬にはいません」



途端に颯馬と司水に反論されたが親父は納得しないように、組んだ腕の上にある指をトントンと動かした。

そんな親父の様子をなんとなく見ていたら目が合った。

俺はこれを機会に、と思って質問してみた。



「依頼とは?」



訊ねると、親父の指の動きが止まった。

そして視線を颯馬さんに向けると、俺の座っている方に顎をくいっと動かした。

まるで説明しろ、と言っているように。



「あー、俺から説明するよ。
以前兄貴が梟に依頼して、理叶を逮捕したサツの捜査チームの責任者を失脚させたんだよ」

「こ……梟に?」

「うん。実は理叶は他にも余罪があったらしいんだけど、そのおかげで理叶は再逮捕されることなくわずか半年で出てこられたってわけ」

「……そうだったのか」

「まあ理叶が逮捕された要因である銃刀法違反も、でっち上げみたいなもんだったからさ。
絆も理叶がそんなヘマするわけないと思ってたろ?
あいつは仕事に関しては用意周到で完璧だからな」



颯馬さん親父の指示通りつらつらと説明を始める。

親父は理叶さんが話題にされるのも嫌なのか、表情はどんどん険しいものになっていった。
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