惚れたら最後。
「兄貴、そんな顔してるけど知ってたよな?
理叶にああいう素質があるって」

「……」

「穏やかに見えて敵と見なした者に残酷な仕打ちを平気でする。
理叶は家族に恵まれたからその感情を抑えつけて人間らしくあろうとしてたけど、生まれつきのサイコパスの部分は隠せない。
特に理叶は、壱華の件でタカが外れたんだ。
20年前、西から戻ってきたあいつはもう別人だったよ」

「どいつもこいつも壱華、壱華と……」



親父は苛立ちを隠すように胸ポケットからタバコを出して流れるような仕草で火をつけ、紫煙をくゆらせた。

煙が天井へと上っていく。

ぼんやりと煙の行方を目で追っていたが、視線を感じてやめた。



「絆、お前は絶対あんか面倒な敵作るなよ。
失うものがねえ奴は何しでかすかわかんねえ」



忠告をする親父の顔には母さんと一緒にいるときの余裕がない。

偉大なる長ではあるが、同時にひとりの人間なのだと感じさせられた。



「親父でもそうやって不安になる時あるんだな」

「……俺にとって壱華が最大の強みであり、弱みでもあるからな。
お前も今なら俺の気持ちが分かるだろう」

「ああ……痛いほどに」



見合わせた父の瞳の奥には、いつも唯一無二の母がいる。

同様に俺の中には琥珀の存在が日に日に大きくなっている。

ふと、今すぐに琥珀を抱きしめたくなった。
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