惚れたら最後。
他意がないならいいんだが……。

それにしても、琥珀は秘密が明かされるのを拒んでいたのに、どうしてひとりで決断したのだろう。

それとも頼りないと思われているのか。

琥珀が絡むと自分も弱くなってしまうことに気がついて、親父のことを言えないなと思った。



「ああ、確かに琥珀ならそう考えそう」



悶々と考える絆の心境を変えたのは、割と楽観的な考え方をする憂雅だった。

もちろん若いということもあるが、昔から深刻に考えないタイプだった。

俺はそんな対極的な憂雅に何度か救われていた。



「琥珀は慎重派だもんな、石橋を叩いて渡るタイプ。
危険だと思ったら先に手を打っておくのが妥当だし、中立的な立場で考えられる父さんを味方につけるのはいい判断だと思う。だろ、絆」

「的を得た見解だが、憂雅が琥珀を語るなよ」

「ええっ、そこに嫉妬するかぁ?」



感謝する反面、憂雅に嫉妬心を燃やしてしまった。

その様子を見て司水さんが笑い出した。実に嬉しそうな笑みだった。



「ふふっ、若い時の志勇を見ているようです。
壱華様が絡むと今の絆と同じ顔してましたね。いやぁ、懐かしい」



同性でも綺麗だ、と思ってしまう彼の笑顔。

50歳を過ぎて目元にシワが集まるようになったが、それでも十分魅力的だった。

司水さんと対称的に、親父は目を逸らし仏頂面だ。



「ああ、そんないじけないでください志勇。
息子の前では完璧でありたいんですね。
その気持ちは分かりますが、そこまで似るかと思ったらおかしくって」

「そんな笑うことじゃねえだろうが、ったくお前は昔から変わらねえな」

「恐れ入ります」

「褒めてねえんだよ」
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