惚れたら最後。
「え、いいんですか?」

「お泊まりだ、やったあ!」



星奈は遠慮がちだが嬉しそうに笑い、流星は喜びを全身で表すようにジャンプした。



「え、だめだよふたりとも。そんな甘えさせてもらうわけには……」

「琥珀ちゃん、今日は絆とふたりきりでいてあげて。
あなたと話がしたいみたいだし、そういう時間も大事だからね」

「……でも」

「そういうことだ琥珀。ありがとう母さん」

「いいえ、どういたしまして」



床に置いてあった琥珀の荷物を拾い上げ、尻込みする琥珀の腕を引っ張る。

「え、ちょっと」と言いながら琥珀はついてきてくれた。



「いいのかな、絆のお父さんだってあの家で寝泊まりするのに、遊びたい盛りの子ども泊まらせて」



憂雅が待つ車に乗ると琥珀は心配そうに話しかけてきた。



「その点は心配しなくていい、一応理叶さんのために、夜は出所祝いで宴会やるって」

「絆は行かなくていいの?」

「俺は蚊帳の外にされると思う。お前の味方だから」

「……ああ、そういうことね」



賢い琥珀は、わずかな会話だけで大方の意味を理解したようだ。



「組は真相解明を急いでるってこと?」

「ああ、ひと月は待つと言っていた。だがそれ以上は……」

「そうだね、確かに1年以内には片付けたいもんね。組長さんの気持ちは分かるよ。
これ以上先延ばしにすると、組は報復する気がないんだと思われて新たに攻撃される可能性もある」

「望月に持ちかけた交渉はどうなった?」

「色良い返事はしてくれたけどなにせ『非道の覇王』とまで言われる男だ。
こればっかりは慎重にいかないと……」

「ああ、そうだな」



暗い話題に視線を落としてしまったその時だ。
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