惚れたら最後。
「なあ、おふたりさん」



運転席の憂雅が口を開いた。



「さっき言ってたタルトのお店寄ってもいいか?」



そわそわしながらそう言った憂雅に、絆はしばらく思考停止した。

そして笑いが込み上げてきた。



「ぶっ、はは!悪い憂雅、俺たちが真剣な顔で話し合うもんだから言い出せなかったんだな」

「よかったー、言えて。あと1km走ったら高速乗るから寄って行けなくなるとこだった」

「憂雅さんそんなに行きたかったんですか?」

「なーに言ってんだ琥珀。
俺が甘いものには目がないってこの前ビュッフェ行った時分かったろ?」

「ああ、そうでしたね」



あれだけ張り詰めた表情をしていた琥珀が笑った。

ふと見た横顔には自然な笑顔が戻っていてほっとした。




その後、洋菓子店に寄った。

憂雅が少年のように目をキラキラさせながらショーケースを眺める様子を観察しながら、隣に立つ琥珀に話しかけた。



「今日は気を使わせたな、ごめん」

「なんで絆が謝るの?気にしないでよ、いろいろ勉強になったし」

「……それって本心か?」

「……」

「俺は正直怖かった。俺たちの裏の顔を知れば知るほど、琥珀が離れていくんじゃねえかと」

「確かに潮崎理叶は私の想像を超えてた。
壱華さんにひどいことしたのに、荒瀬組は処罰が緩いんじゃないかって今日は出会うまで思ってたけど、そうじゃなかった。
彼はちゃんと地獄を経験してた。じゃないとあんな色のない瞳……見せるわけが無い」

「……」

「ってごめん、また暗い方向に話がいってた。私も疲れて糖分補給したいからタルト選んでくる」



琥珀は軽い口調でそう言うと離れていった。

その表情は少しぎこちなかった。
< 215 / 312 >

この作品をシェア

pagetop