惚れたら最後。
平日の昼時とあってか、店は自分たち以外の客はいない。

だから憂雅と琥珀が楽しそうにケーキを選ぶ様子が気に入らなかった。

いつからこんな余裕がなくなったんだか……。

醜い嫉妬心を分かっていながらも、足はふたりがいるショーケースの方へ進む。



「ホールで買っていいぞ」



ぼそっと話しかけると、反応したのはなぜか憂雅だった。



「まじで?じゃあ俺はこれとこれと……」

「馬鹿、琥珀に言ったんだ」

「えぇっ、なんだよ完全に勘違いした」

「お前は自分の金持ってるだろ。てかどんだけ買うつもりなんだよ」

「え?凛兄と力さんが後で事務所来るって言うから多めに買っておこうと思って」

「あのふたりって甘党だったか?」


「すみませんこのホールのフルーツタルトお願いします」



憂雅と話していて油断した。

琥珀はショーケースの向こう側にいる店員に注文をして、財布を出して自分で買う気満々だ。

俺はすかさずカルトンの中に財布から抜き出したクレジットカードを出した。



「……別にお金あるからいいのに」

「たとえ腐るほどあるんだとしても貯蓄しとけ。ここは俺が出す」

「ありがと。じゃあお言葉に甘えて」



琥珀は笑って財布を引っ込めた。



「あー、フルーツタルトもいいなぁ。
でもモンブランタルトも捨て難い……うぅん」

「後で分け合いましょうよ憂雅さん」

「それもいいな。じゃあモンブランタルトといちごのタルトと、季節のフルーツのタルトで」

「買いすぎだろ、余ったら誰が食うんだよ。
事務所おっさんばっかりだから甘いものは胃がもたれるとか言いそう」

「安心しろ、俺が食う」

「……ドヤ顔でこっち見んな」
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