惚れたら最後。
「……だ、誰なの?」



だけど私は何も知らないかのように演技して小声で怯えた声を発した。



「黙れ、ついてこい」



当然相手は取り合ってくれない。

ぐいっと強く手首を捕まれ、男の後をついて早足で歩いた。

大通りを外れ、細い路地裏を抜けると、その先の道路に黒いハイエースが泊まっていた。

窓にはスモークがかかって中の様子はうかがえない。


琥珀は歩きながら瞬時にナンバーを記憶した。

予想通り車は京都ナンバーのだった。



「入れ!」



男は私は無理やり押し込んだ。

よろめいて中に入ると、運転手を含め3人の男が座っていた。

どの男も人相が悪い。“その道”の男だとすぐ分かった。

車のドアが閉まると同時に動き出し、黒い布で目隠しをされ、前で手を縛られ、後部座席に座らされた。



「動くなよ、下手な真似をしたら死ぬよりも怖いものを見るぞ」



ここまで連れてきた男の声とともに、頬にピタリとナイフの冷たい刃の部分が当てられた。

冷たい感覚に驚いて「ひっ…」と驚いた声を上げると男はそれ以上何も言わなかった。
< 226 / 312 >

この作品をシェア

pagetop