惚れたら最後。
車に乗ってしばらくするとGPSの追跡を頼んだ組員から電話がかかってきた。
俺はスマホを助手席に投げ、スピーカーにして通話を開始した。
「坊、やられました!」
「なんだ」
「GPSの信号が止まりました。
でも高速道路の上で止まるなんてことはありえねえから、たぶん通信機器を窓から捨てたんだと思います!」
「チッ……」
「車種は特定できませんでした、これからどうしましょう」
「今お前はどこにいる?」
「へい、あと10分ほどで神奈川を抜けて静岡に入るところです」
「……分かった。お前は戻れ、ご苦労だった」
「は?いいんですかい!?」
「無闇に動けば相手方の思うつぼだ。俺も一旦冷静になる」
赤信号に差し掛かった時、助手席に手を伸ばして通話をやめた。
この交差点を抜けて住宅地に入ればすぐ本家にたどり着く。
しかし、こんなにも本家までの距離が長いと思ったことは無い。
「琥珀……」
耐え難い不安の波が押し寄せる。
どうしようもできず、ハンドルを強く握り歯を食いしばった。